薬のオフ・ターゲットを予測する。

今週のNature advance online publicationに、面白い論文が載っていた。

Predicting new molecular targets for known drugs
http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/full/nature08506.html

「薬のオフ・ターゲットを、既知の医薬品や既知の受容体リガンドの構造式の類似性から予測する」というのがその内容。実用度(スクリーニング効率)としては、まだまだのところもあるが、実際に、既知の薬剤で知られていなかったターゲット分子を見いだすことに成功している。詳しい予測法は、私の理解の範囲を超えるので残念ながら紹介できないが、考え方としてはとても面白いと思う。

通常、薬の作用は、目標としたターゲット分子への結合を介しておこる。

しかし、薬の分子は本来目標としたターゲット分子にのみ結合するとは限らない。予想もつかない生体分子に結合し、予想外の薬理作用を起こすことがある。

これを「オフ・ターゲット」を介した作用という。オフ・ターゲットを見つけることで、副作用の予測、想定外の適応拡大、などが可能になる。

近年の新薬開発では、開発化合物候補を選ぶ段階で、100種類以上の生体分子(受容体、酵素イオンチャネル、トランスミッターなど)に対する親和性を調べ、オフ・ターゲットを本格的に探索するのが普通だ。自社内で行なう場合もあれば、受託企業のお世話になることもある。いずれにしろ、コストと時間がかかり、お手軽にできる仕事ではない。

オフターゲット探索がin silicoで、しかも定量的にできるとなると、これは非常にありがたい。実は、化学物質の毒性については似たようなアプローチがなされている。これまでに得られた膨大な化学物質の毒性試験の結果と構造式のデータベースから、新規化合物の構造に予想される毒性をピックアップするというものだ。ただし、これはあくまで定性的な議論で、定量性のあるものではない。

今回の報告では、既存の医薬品について、これまで知られていなかったオフ・ターゲット(親和性100nM以下)を推測、実験によって確認することができたようである。方法論のブラッシュアップにより、実用段階に行けることを期待したい。

いろいろな医薬品とオフ・ターゲット分子間を線で結んだダイアグラムが、この論文には載っているのだが、これがとてもきれいである。いろいろなターゲット分子を介して、薬の間にネットワークが出来ている。まさに、「薬の友達の輪」である。こういうのは、見てるだけで楽しい。