「創薬」という言葉。

このブログ「創薬研究者のメモ書き」なんて名前を付けている。「創薬」というのは、英語の「drug discovery」または「drug development」の日本語訳で、分かりやすくいうと「新薬開発」を別の言葉で言いなおしたものだ。ちなみに、私のTwitterアカウントの@drug_discoveryも「創薬」に由来したものである。


この「創薬」という言葉。一体いつ頃からいわれだした言葉なのかは、よくわからない。学術雑誌のアーカイブ(Journal@rchive)で調べてみると、どうやら1967-68年の段階では「創薬研究」という使われ方をしている。私の生まれた年よりも古い言葉だ(追記;正式なソースは未確認だが、1964年、野口照久氏によって提唱されたという)。


藥學雜誌, Vol. 88 (1968) No. 2 pp.227-234


さて、この「創薬」という言葉。業界で盛んに取り上げられるようになったのは、1980年代後半以降のことだといわれている。「創薬」というキーワードでJournal@rchiveを調べてみると、1968年の論文の次は、一気に1980年代に飛んでいる(これは、アーカイブの収録雑誌によるものかもしれないが)。


1980年代後半には、日本の製薬業界では「日本発のオリジナル新薬をつくろう」という動きが大きくなって来た。それまで、日本の製薬企業の薬は、欧米の新薬の後追いである「me too drug」と呼ばれるものが多かった。


「新規メカニズム、オリジナル製剤」など、日本独自のモノを求める動きが、クリエイティブな響きをもつ「創」の字を薬の世界に再び登場させたのだろう。


創薬」の時代になってから、日本発のオリジナル新薬は確かに増えた。プログラフ、ラジカット、ハルナール、アリセプトアクトス、リュープリン、そうそうたる新薬群が、ブロックバスターとなった。


しかし、これらに続く後続の薬が十分あるかというと、残念ながら不足していると言わざるを得ない。私たちの世代の創薬研究者が、はたしてかつての「創薬ブーム」の再来を可能にできるのか。当事者としては、しんどいところだ。


新薬開発は何が起こるか分からない。失敗も多いが、思いもよらない成功もある。「創」という文字には「物を作り始めるときに、切り出すことや、封じていたものを切り開く」という意味があるらしい。「どんなタイミングで、新しい切り口が見つかるか分からない」という意味で、「創」という文字は、私に勇気を与えてくれる、そんな気がした。


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