SPring-8の仕分け作業を聴いて。

この週末、少なくともTwiterの科学者のコミュニティーでは「仕分けによる科学技術予算の削減」の話題で持ち切りだった。

個人的には、創薬に関連が深いSPring-8の仕分け作業が気になったので、公開された仕分け作業の様子をmp3ファイルで聞いてみた。

指摘されたのは、以下の3点。

1.費用対効果が見えない。
2.組織運営の改善の余地あり。
3.コスト意識が足りない。受益者負担を増やすこと。

1については、あきらかにプレゼンでのアピール不足である。SPring-8の学術的産業的応用については、さまざまな事例があることは、SPring-8のサイトに置いてある刊行物を見るだけで分かる。

http://www.spring8.or.jp/pdf/ja/brochure/p07-10.pdf


2については、天下りとか運営の外部委託とかのシステム的な要素。ここは、確かに十分な検討が必要。ここで経費節減が出来るのなら是非して欲しい。


3については、企業関係者として耳が痛い。たしかに、巨額の税金を使って作られた施設を使わせてもらっているのだから、それなりの費用負担は必要だと思う。


製薬企業の場合、全国の22社の製薬会社がコンソーシアムを作って1つのビームライン(放射光測定装置)を占有し、共同で使用している。建設費は5.5億円、使用料は維持費で年間1.1億円プラス使用料7700万円(3200時間/年)。

http://www.pcprot.gr.jp/pdf/7SP8.pdf

これが、Spring-8の年間予算86億円に比してどうか、といわれると、やはりもう少し払ってもいいのかな、とは思う。仕分け人が、仕分け作業中に言っていた「それほど大事な装置なら、使用料が高くなっても使う人は使うでしょう」という言葉は、まさにその通り。製薬業界に取っては、使わないと言う選択肢は今の段階ではないとおもう。


SPring-8の使用の20%は企業、80%はアカデミア。アカデミアに費用負担を求めるのは、現在の状況ではやはり酷なので、企業が踏ん張らざるを得ない。


ただ、コンソーシアムに入っていない企業、小さい企業については、負担が大きくなるとSPring-8に手が出せない、と言う状況が起こるかもしれない。これは、使用者減、使用料減、につながり、新規研究への参入障害にもなりうるので、何らかの対応(使用料減免や新たなコンソーシアムの作成)などが必要だろう。


また、あまりにも高い使用料になると、この分をどこかに転嫁しなくてはいけない、そうすると創薬活動に何らかの影響(不採算分野の縮小など)が出る可能性は否定できない。企業の意見も十分に取り入れた、使用料設定が必要だろう。


費用対効果が示しにくい基礎研究には国費は最低限しか出せない、というのは、個人的には疑問を感じる。費用対効果が示しにくいからこそ補助がいるのではないか、だからこそ試験装置の利用価値の積極的なアピールが必要だった。今回は、その点大失敗だったのが残念でならない。


一方、企業が直接基礎研究をする余裕がない現状では、こういう間接的な形で基礎研究を応援するしかないのではないかとも思う。そんなことを気づかされる仕分け作業だった。