教科書に分からないと書いてあること

薬に関係したホームページを開いていると、薬学生からの「この薬の作用メカニズムが分からない」という質問をよく見かける。で、「教科書によく分かっていないと書いてある」という言葉が、必ず後ろについてくる。

薬の中には、「詳しい作用メカニズムがわからず、単に効くから用いられている」ものも結構多い。ヒトを用いた臨床試験で効果と安全性が確認されれば、詳しいメカニズムが分からなくても、案外、新薬は世の中に出ることが出来るのだ。

こういう薬を大学の授業で扱うには「教科書に書いてあることを覚えろ」で済ますしかない。しかし、教科書には使い方や副作用は書いてあっても、作用メカニズムについては書いてない(というか書けない)。薬学生が、何か不十分に感じ、不安になるというのは当然だろう。

「わからないことをそのままにしておく」というのは、研究者にとっても当然気持ちが悪い。というわけで、学術論文ベースで探せば、「作用メカニズム不明の薬の作用メカニズムの研究」(ややこしい)というものは、結構出てくるものだ。

文頭の薬学生さんの質問については、これらの論文からの情報を答えるようにしている。で、「これらはあくまで仮説の段階であり、教科書に載れる程の確証はない」ことを付記しておく。

「教科書に分からないと書いてある=全く何も分かっていない」という事柄は、科学的なことについて言えば、世の中にはおそらくほとんどない。教科書はあくまで過去の知識の貯蔵庫であり、今現在、我々が持っているの知識を全て詰め込んだ物ではない。

大学の先生が、そのあたりのことをきちんと生徒さんに伝えているといいのだが。