洋書の教科書のすすめ

大学では有機化学と生化学で、洋書の教科書を使っていた。

もちろん、学校が推薦していたのは日本語のものだったが、薄くて要点しか書いていないものだったので物足りない。有名な海外の教科書は、分厚くて手厚い解説がつけられているが、翻訳された物はいかんせん値段が高い。貧乏な学生には、安い原書の方についつい手が伸びてしまったのもしかたがない。が、結果としてこれはいい選択だったと思う。

原書の教科書を読むにはまず英語力が必要だ、といいたいところだが、実際のところは英語を読む勉強をしながら、一緒に内容の勉強をしていたような気がする。

一般に学術書に使われている英語は文学的なものは少なく、真実を伝えるのに必要最低限の文法のみで事足りる。だから英文法の知識はそれほど必要ではなかった。大事だったのは、専門用語を表す英単語とその正確な用法だった。

英和辞典を引きながら内容を咀嚼し、わからないところは学校で指定された日本語の教科書を参考にして解読する。図をにらみながら、英語の文章のながれを追っていき、ノートには英語のまま要点を書き込む。

これを繰り返すことで、教科書(および原著論文)を読むのに必要な英語力、知識はだいたい身についたような気がする。言葉を学ぶのと同時に知識を手に入れる、という一挙両得は、おそらく学問以外の事項にも当てはまるのではないかと思う。

英語を日本語に変換して考える、というのは、英語学習では禁じ手とされている。しかし、英語を介して学問をまなぶ際には、英語を日本語に変換して考えるというのは、逆に頭の中に知識を再定着させるための有効な手順ではないか、と今となっては思う。十分知識が頭の中に定着すれば、自然に英語だけで頭に入るようになるものだ。

最近の学生さん(とくに薬学部の学生さん)は、覚えるべきことが多すぎて、じっくりと洋書の教科書を読む機会は少ないかもしれない。ただ、一冊くらいはトライしてみることをお勧めする。回り道というものはつかれるけど、その分、体力はかならずつくものである。